東京証券取引所の株式取引は、2024年11月5日から終了時刻が15時半になった。以前より30分長い。売買できる時間が増えるなら歓迎されそうだが、発表当時は相場を見る時間が延びることや、取引終了後の時間が減ることへの不満も出ていた。
その後の東証の検証では、15時以降にも約1兆円の売買があり、心配された通常取引の流動性低下も問題は見られなかったという。ただし、約1兆円には、その日の終値を決める売買も含まれる。延長によって丸ごと新しく生まれた取引、という数字ではない。
使われない30分になったわけではなさそうだ。一方で、終値を決める直前の値動きには、改善すべき点も残った。あの延長は、何を変えたのか。
取引できる時間が増えるのに、なぜ不満が出たのか
2023年4月22日付の「市況かぶ全力2階建」は、東証の取引時間延長についてSNSの反応を紹介している。そこで目立つのは、取引できる時間が増える喜びより、終わるのが遅くなることへのぼやきだった。
マジで延長するんかよ…
元記事掲載の、もちベーコンさんの投稿(2023年4月21日)
じろさんの投稿には、困る点として「引け後の時間が少なくなる」とある。「引け」はその日の取引が終わること。決算発表が多い時期など、取引後に情報を確認する時間が短くなるという不満だ。
午後の売買が少ないまま時間だけ延びたら、さらに取引が薄まるのではないか、という声もあった。毎日相場を見ている人にとっては、店の営業時間が延びて便利になる、というだけの話ではなかった。
15時になれば一区切りだったものが、もう30分続く。増えたのが取引のチャンスでも、画面を見る側には拘束時間でもある。この嫌がり方は分かる。
当時の反応を読む(市況かぶ全力2階建・2023年4月22日)
元記事の見出しは「誰も望んでいない」と強い。ただ、紹介されている投稿が投資家全員の意見を代表しているわけではない。ここでは、実際に確認できる不満として受け止めたい。
15時終了から15時半へ。最後の5分は注文を集める時間に
東証側が掲げたのは、取引機会を広げること。併せて、その日の最後の株価である「終値」が決まる過程を、より分かりやすくする仕組みも導入した。実施は2024年11月5日。2023年に出ていた延長の話が、翌年に実行された形だ。
ただし、15時半まで同じ方法で売買が続くわけではない。通常の売買は15時25分まで。その後の5分間は注文を受け付け、この間は売買を成立させず、15時30分に集めた注文を突き合わせて終値を決める。これが「クロージング・オークション」だ。
| 時間 | 2024年11月の変更後 |
|---|---|
| 15時25分まで | 通常の売買が続く |
| 15時25分~ 15時30分 |
注文を集める。売買は成立しない |
| 15時30分 | 集めた注文を突き合わせて終値を決める |
取引時間の延長と、終値の決め方の変更は、同じ日に始まった別の見直しだ。実施後の結果も、分けて見る必要がある。
2024年11月5日の実施発表を読む(JPX)
最後の5分間の仕組みを確認する(JPX・2024年11月の項目)
15時以降にも約1兆円。取引が薄まる心配はどうなった?
東証の2026年公表資料には、延長前後を比較した検証結果がある。取引所の立会市場における1日平均売買代金は、次のとおりだった。
| 比較期間 | 1日平均 売買代金 |
|---|---|
| 延長前 2023年11月1日~ 2024年6月28日 |
4.98兆円 |
| 延長後 2024年11月5日~ 2025年6月30日 |
5.10兆円 |
数字は増えている。ただ、この差がすべて30分延長のおかげ、とは言えない。資料でも、米大統領選などの出来事や、取引時間中の企業の情報開示が増えたことに触れている。比較する時期の相場環境も違う。
同資料では、延長後の15時以降にも1日平均で約1兆円の売買があったと説明している。この金額には15時30分の終値を決める売買も含まれ、約1兆円すべてが新たに増えたわけではない。従来も行われていた終値の売買が、遅い時間へ移った分もある。
それでも、終値を決める売買以外の時間にも売買のしやすさは保たれ、心配されていた通常取引の流動性低下について、東証は問題が見られなかったと評価している。少なくとも、検証対象の期間について「時間を延ばしたら取引が薄まるだけだった」と片付ける結果ではない。
売買代金と延長の検証を見る(JPX参考資料編・冊子11ページ/PDFの12枚目)
なお、これは2026年に公表された資料に載る、2025年6月末までのデータだ。2026年10月現在の売買代金を示した数字ではなく、個人投資家の利益が増えたことを示す数字でもない。
取引には使われた。ただ、終値直前の値動きには課題も残った
一方、同時に始まったクロージング・オークションは、導入して完成とはならなかった。2026年4月22日付の東証の報告では、終値が決まる直前に気配値が急に動くことなど、さらに改善が必要な点も挙がっている。気配値は注文から見える売り・買いの値段で、実際に売買が成立した価格とは区別したい。
報告は、終値の透明性を損なうような悪質な直前の注文変更・取消しは確認されていないとしている。課題があることを、そのまま不正が横行していた証拠にするのも違う。
終値の決め方に残った課題を読む(JPX報告本編・冊子5ページ/PDFの6枚目)
JPXは、最後の売買を行う時刻を一定の幅の中で毎日変える「ランダムクローズ」を、2027年10月12日に導入する予定としている。2026年10月29日の確認時点では、まだ実施前だ。
ここからは編集部の見方だ。「時間だけ延びて取引が薄まる」という心配に対して、東証の検証は違う結果を示した。延長した時間は使われていたし、終値の決め方も改善を続けている。
ただ、「もう30分、相場を見ていたくない」という人に、売買代金が増えたと説明しても、それで納得できるとは限らない。市場全体の取引機会と、自分が早く切り上げたい気持ちは別だ。延長が無意味だったとは言いにくいが、当時のぼやきまで間違いだったとは思わない。
※2026年10月29日確認。当時のSNSの感想、東証が説明する制度の目的、検証対象期間のデータ、編集部の考察を分けて記載しています。公式画像・グラフは転載せず、出典へリンクしています。