Wordで文章を書き、Excelでデータを分析し、PowerPointでスライドを作る。その作業を、言葉でAIに頼めるようにする――2023年、マイクロソフトが発表したのが「Microsoft 365 Copilot」だった。Officeの仕事を手伝うAI、と考えると分かりやすい。
あれはデモだけでは終わらなかった。同社は2026年度、有料席数が3,000万を超えたと報告している。資料作りの道具を変えたという意味では、ゲームチェンジャーという期待にはうなずける。ただ、当時飛び出した「社員がいらなくなる」という予想まで当たったのか。そこは別に見たい。
2023年のMicrosoft 365 Copilot公式発表を読む
「パワポまで作るのか」――OfficeにAIが入ると騒がれた2023年
発表は米国時間の2023年3月16日。日本語の公式記事は翌17日に公開された。Wordの文章の下書き、Excelでの分析、PowerPointのスライド作成、Outlookのメール要約、Teamsの会議内容の整理。毎日使うアプリにAIが入るという話だった。
白紙の文書を開いて手が止まる。会議が終わったのに、議事録をまとめる仕事が残っている。その面倒を引き受けてくれるなら、欲しくなるのも分かる。
2023年3月18日付の「市況かぶ全力2階建」は、この発表を受けたSNSの投稿を紹介していた。資料作りやExcelの操作が楽になることへの期待がある一方、会社員の仕事そのものが減るのでは、という声もある。古いバージョンのOfficeを使う会社まで恩恵を受けられるのか、という疑問も出ていた。
昔のOfficeには、操作を案内するイルカのキャラクターがいた。そのイルカを消した人間が、今度はAIに消される側になる――そんな冗談まで紹介されている。便利な助手が欲しい。でも、自分の席までなくなるのは困る。当時の期待と不安がよく出ていた。
当時のSNSの反応を紹介した記事を読む(市況かぶ全力2階建・2023年3月18日)
もっとも、発表直後から誰でも使えたわけではない。3月の公式発表では、少数の顧客とテストしている段階だった。また、公式側も生成した文章に間違いが含まれる場合があり、残すか直すかは人が決めると説明している。「AIが作る」と「そのまま提出できる」は、最初から同じ話ではなかった。
有料3,000万席超。AI搭載はデモで終わらなかった
その後、Copilotは実際に商品になった。2023年9月21日に同年11月1日の法人向け一般提供が告知され、11月の公式記事でも提供開始が報告されている。当時の案内は1ユーザー月額30米ドル。Microsoft 365の対象契約に追加する製品で、Officeを持っていれば全員に無料で付く、という話ではなかった。
この30ドルは、2023年の法人向け提供時に案内された金額だ。現在の日本価格や、個人向けプランの料金ではない。
当時の提供日・価格の公式告知を読む(英語)
法人向け提供開始後の公式発表を読む(英語)
そして2026年7月29日の決算発表で、同社はMicrosoft 365 Copilotが有料3,000万席超に達したと公表した。対象は2026年6月30日までの同社2026年度。2026年10月28日の調査時に確認した、時点の明らかな公式数字だ。
ここでいう「席」は有料ライセンスの数であり、毎日使う人が3,000万人いるとか、3,000万社に導入されたという意味ではない。無料のCopilot Chatや、開発者向けのGitHub Copilotの利用者数を足した数字でもない。
| 時期 | 確認できる内容 |
|---|---|
| 2023年3月 | OfficeアプリでのAI支援を発表。少数の顧客とテスト |
| 2023年11月 | 法人向け一般提供を開始。当時は1ユーザー月額30米ドルと案内 |
| 2026年度 | Microsoftが有料3,000万席超と報告。利用頻度や導入企業数とは別の指標 |
有料席数を公表した2026年7月29日の決算発表を読む(英語)
機能の方向も広がった。2026年の年次報告で同社は、Microsoft 365 Copilotを、その場で質問に答える助手から、時間のかかる複雑な作業を進めるエージェントへ発展させたと説明している。2023年の発表内容を、そのまま現在の全機能と考えるのも違う。
Microsoftの2026年年次報告を読む(英語・Microsoft 365 Copilotの記述)
ゲームチェンジャーにはなった。「社員がいらない」は別の話
ここからは編集部の見方だ。文書やスライドを人が一から作るだけでなく、AIにたたき台を出させて直す。Officeにその選択肢を持ち込み、有料の製品として広げた。この意味で、ゲームチェンジャーという評価は大げさなだけではなかったと思う。
ただし、席数が売れたことと、仕事がうまく片付いたことは同じではない。今回確認した数字だけでは、全社で使いこなしているとも、どの職場でも元が取れているとも言えない。まして、社員が不要になったという結論は出ない。
AIが作ったスライドの数字が違っていたら、会議で困るのは提出した人だ。たたき台を作る手間が減っても、何を伝えるか、内容は正しいかという判断までなくなるわけではない。
2023年の予想を振り返るなら、「OfficeでAIに資料作りを頼む」は現実になった。「それで人間はいらなくなる」まで一緒に正解にするのは、さすがに話が早い。白紙から作る面倒は減らせても、確認せずに出せる資料になったわけではないのだから。
※2026年10月28日確認。2023年の発表・提供条件と、2026年度の公式報告を区別して記載しています。席数はMicrosoftの公表値で、編集部が実利用人数や業務効果を独自計測したものではありません。